通算40年以上、投資の世界に身を置く“tsumiki no Jii-sama”。
世の中の変化や、投資の魅力について一緒にまなびましょう♪
tsumiki証券 取締役tsumiki no Jii-sama
↓前回の内容はこちら
筆者が外資系の運用会社に転職してファンドマネジャーを始めた30数年前、先輩ファンドマネジャーと言い争いになったことがあります。アメリカのビジネススクールで最新の投資理論を学んできたばかりの筆者は、「値段のブレ」をリスクととらえる考え方を盲信していて、当時アメリカの学者が創設した会社が提供する「リスクモデル」を活用して自分達が運用するファンドのリスク管理をするべきだ、と主張しました。その時先輩ファンドマネジャーは「リスクモデルでは過去の株価をもとにリスクを計算しているので、それを参考に運用するのはバックミラーを見ながら自動車を運転するようなもの。しっかり前をみて運用するためには企業調査や経済分析をちゃんとやるしか道はなく、それが本当のリスク管理」と言い切りました。
結局会社としては、リスクモデルは導入するものの「定期健康診断」的に運用の参考にする程度にとどめる、ということで落ち着きましたが、その後も筆者の頭の中からこの論争の記憶がなくなることはありませんでした。過去の値段のブレをリスクととらえ、それを統計学的に処理してリスク管理に使うやり方はその後世界の金融業界ですっかり定着してしまいました。しかし、本来学者達の提唱した理論では、過去の値段のブレに基づく「過去のリスク」ではなく、「将来の予想リスク」に基づいてポートフォリオのリスク管理を行うことが必要なのに、肝心の未来の値段のブレは誰にも予想できないため、仕方なく「過去のリスクの数字が将来も安定的に保たれていくだろうという大前提」を置いて思考停止に陥ってしまったのです。ただ、世界のお金の大きな流れの中で運用されている株式は、時折大きな世界的ショックに見舞われることは皆さんご存知の通りです。有名なリーマンショックの時などでも、100年に一度のリスク(確率分布の図では胴体ではなくシッポの部分という意味でテールリスク)が発生したとか言われ、リスク管理が機能しない状況になりましたが、過去のデータしか見ていないリスクモデルが現実世界で機能しないのは当然のことなのです。
しっかり前方を見ながら自動車を運転するべきなのは当たり前のことですが、投資という名の自動車の運転では、フロントガラスの前方は2‐3か月先まではぼんやり見えるような気がする程度で、半年先ともなるとほとんど吹雪の中のホワイトアウトのような状態です。ですから仕方なく、バックミラーの景色を参考にしながら「多分前方はこんな感じの景色だろう・・・」と想像しながら運転しているのです。プロのファンドマネジャーやそれを支えるアナリストやエコノミスト達は「個々の企業の3年後の収益見通しはこうこうで、長期の経営戦略はこんな方向。世界経済の来年の見通しはこうなので、個々の企業に対する影響についてはここがプラスでここがマイナス等々」といった調査・分析の結果をもとに、どうにか前方の視界を少しでもクリアにした上で運用を行おうとします。このように、運用会社の調査・分析を行う「人材の質」とそれを支える「組織体制」は、長期では大きく運用成績を左右するのは自明の理です。
さて、運用会社が会社としてリスク管理をする場合、「本当は過去のデータではダメなんけど・・・」と思いながら、そのようなリスクモデルを使っているのにはワケがあります。人様から預かったお金を運用する場合、「説明責任」が発生しますが、それを客観性のある数字で説明できるからです。つまり「これくらいのリスクをとって運用していました」とか「取ったリスクに対してそれ以上のリターンを出すことが出来ました」とか、他の運用会社との運用成績の比較をする場合でも、3年とか5年とかの一定の期間内の運用成績の絶対値(何%の値上がり値下がり)だけでなく、その間ポートフォリオで取っていたリスクの度合いも考慮に入れて比較することもできるからです。でもこれらは全て過去のことであって、将来のリスクの説明ではないことを理解しておかなくてはなりません。
「未来シナリオ」を考えながら、前の良く見えないホワイトアウトの中、日々車を走らせなくてはならないプロのファンドマネジャーは、チームで調査・分析とトコトンやり、「バックミラーによるリスク管理」を行いながら運用の「説明責任」を果たそうとしています。それに対して投資家である皆さんは、説明を受ける立場ですから、そのような説明に時々目を通しながら、日々の「値段のブレ」のわずらわしさからは解放されて、遠くの富士山を眺めるような気持ちで、ゆったりと長期投資を継続してゆくのがよろしいかと思います。
一富士、二鷹、三なすび!
tsumiki no Jii-sama
・当社が取り扱う商品は、信託報酬等の手数料がかかります。
・投資信託は価格の変動等により投資した金額が減るおそれがあります。詳しくは各商品の目論見書・目論見書補完書面(当社ウェブサイトにあります)をお読みの上、お客さまご自身でご判断ください。
tsumiki証券株式会社
金融商品取引業者 関東財務局長(金商)第3071号
加入協会:日本証券業協会www.tsumiki-sec.com